実際の症例
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最近よく吐き、やせてきたとのことで来院されたラブラドールです。このときは嘔吐がひどかったため、レントゲンにて胃拡張確認後、即手術となりました。この時点では合併症(胃拡張による嘔吐)がひどくて、喉頭麻痺の診断は出ていません。
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術前のレントゲン写真
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ちょうど1週間前にもこられたため、そのときもレントゲンを撮影しました。レントゲンで見てもあっという間に悪くなっていることが分かります。
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胃拡張整復の手術所見1
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胃カテーテルを入れて、手術を行ったところ、胃が噴門部(入り口)中心に部分的に捻転していました。また、肝臓もそれにつられて一部捻られていて、通常胆嚢が向かって左側にあるのに、開腹直後では右側にあるのが写真から分かりますね。また、胃の噴門側は奨膜に部分捻転による点状出血+充血がありますが、幽門側(出口)はきれいなままでした。
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胃拡張整復の手術所見2
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捻転を整復後、幽門側の一部の奨膜を切って、筋肉に縫い付けるベルトループ胃固定術を行いました。これによって、胃が固定され、捻れる事は今後なくなります。
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胃拡張手術後のレントゲン写真
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手術1日後のレントゲン写真です。胃ガスは溜まっているのですが、胸部はかなり良好になりました。
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この後、3日間ほど入院し、状態も安定していたため退院となったのですが、そのとき飼い主さんに会って興奮したときに呼吸困難と嘔吐が急に出たため、もう一度精査を行ったところ、喉頭麻痺が認められました。
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喉頭麻痺の図解説明
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喉頭麻痺という病気は、麻痺によって呼吸が非常に困難になる病気のことです。いろいろな原因がありますが、原因不明(特発性)の場合も多いです。この病気は本来ならば息を吸う時に開いていなければいけないのですが、麻痺しているため、吸う時に閉じてしまって呼吸が出来なってしまいます。(写真右が息を吐いているときですが、この病気を持っている子は、吸気時にこの右側写真の状態となってしまい、呼吸が出来なくなってしまっています)
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喉頭麻痺手術所見1
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内服で様子を見ていたのですが、改善がなかったため手術となりました。なお、この手術の前に披裂甲状軟骨側方偏位術を行ったのですが、術後の様子が思わしくなかったため、披裂軟骨側方牽引術を行いました。この手術は軟骨に糸をかけて牽引し、息を吸う時に披裂軟骨が内側に入り込むのを防ぐ手術です。まず、甲状軟骨を切開し、披裂軟骨を確認し、ナイロンを披裂軟骨〜甲状軟骨まで通します。
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喉頭麻痺手術2
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両側ともナイロンで披裂軟骨を牽引し、縫合します。これでも状態の改善がなければ、凸凹に切開した甲状軟骨の位置をずらして縫合することにより、喉頭の口径が大きくなる形成術も考慮したのですが、開口して確認したところ、十分な結果が得られましたので、そのまま縫合し終了しました。
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喉頭麻痺術後の写真
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ちょっと見えにくいのですが、手術前と比べてかなり広がっているのが分かりますね。ただ拡がる分、気管にご飯が入ってしまう可能性が出てくるため、手術後は要注意となります。
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喉頭麻痺手術後のレントゲン写真
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手術4日ではレントゲンで、まだ巨大食道がありますが、術後11日たつと巨大食道は認められませんでした。これは、呼吸困難によって空気を飲み込んだために2次的に食道が拡張したか、手術によって一時的な神経の炎症をおこし、それが内服で改善してきたことが推測されます。
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現在の写真
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今は、呼吸困難もなく状態は良好とのことですが、食道の問題で立位に近い犬座姿勢を食後維持しなければならないため、食事を多くあげることが出来ずちょっとやせています。これから食道が完全に問題なくなれば通常通りの食事を行っていく予定です。ちょっとこの病気は合併症をおこすと分かりにくくなる病気ですが、最初に呼吸困難を起すことが特徴ですから、もし、息を吸う方が困難になっている状況でしたら、この病気の可能性がありますので、すぐに様子を診せてくださいね。
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