この100年間、がんの代謝研究への関心は年代とともに大きく移り変わってきた。哺乳動物の細胞は好気性条件下では、酸化的リン酸化によってエネルギー分子であるATPを産生することが知られている。しかし1924年にワールブルグが、がん細胞は酸素が十分存在しても解糖系を使ってATPを産生することを発見1)したことが発端となり、ガンの代謝研究に火がついた。しかし当時の研究からは代謝と発がんの関係を十分に説明できる成果は生まれなかった。1980年代になると分子生物学の実験手法が発達し、がん遺伝子、がん抑制遺伝子が次々と発見された。華やかながん遺伝子研究の陰で代謝の研究は細々と行われていた。しかし、ハイスループットDNAシーケンサー(DNA解析装置)の出現によって様相は一変する。
|
1:がんに関する遺伝子の変異は予想よりはるかに多くかつ複雑である。
|
2:がん化には数千の点突然変異、遺伝子転座、遺伝子増幅、遺伝子欠損が関与する
|
3:病理組織学的に同じ腫瘍であっても、遺伝子変異はかなり異なることが明らかとなった。
|
また、4:がん関連遺伝子の変異は、十数種類の主要なシグナル伝達経路に影響を及ぼすことも判明した。これらの発見は、個々のシグナル分子を化学療法の標的としても有効ながん治療にならないのではないかという疑問をがん研究者に抱かせるようになった2)。
|
さらに5:がん遺伝子の変異によって多くのシグナル伝達経路が影響は受けてはいるものの代謝の変化はほとんど一定(解糖系の亢進及び酸化的リン酸化の抑制)
であることが判明した。
|
この事実が広く注目を集め、2000年代後半からがんの代謝が
再び脚光を浴びるようになった。
|
1)Warbung,O.:Science,123:309-314,1956
2)Cairns,R.A.et al:Nat.Rev.cancer,11:85-95,2011
|